〈レジェンドの名作を楽しもう その4〉
神戸のジャズシーンに偉大な功績を築いた小曽根実さんが逝去されて早2年。
以前、このコラムで小曽根実さんのアルバム「Lazy Dad」(2002年)を紹介しましたが、
それから遡る事33年前、1969年に発表された小曽根さんのアルバム「11PM 〜ハモンド・オルガンの魅力」を是非紹介させてください。
小曽根実トリオ「11PM〜ハモンド・オルガンの魅力」
(1969年録音 CD:COCB-53791)
当時、読売テレビの大人気番組、「11PM」に出演していた小曽根さんとそのトリオ(ギター奥村英夫さん、ドラムス西野邦夫さん)。「11PM」は当時の社会流行を常に捉え、大人の娯楽番組として親しまれただけに、本作では洋楽ヒット曲や国内で流行した歌謡曲の曲目が並びます。レコードではA面を洋楽ヒット曲、B面を国内歌謡曲に分けた構成となっています。それではA面、B面で私が特に印象に残った演奏をそれぞれ紹介していきましょう。
A面ではサイモン&ガーファンクルの名曲、「サウンド・オブ・サイレンス」。誰しもが頭に思い浮かべるあのメロディーを奥村さんが大事に紡ぎ、小曽根さんのスマートなオルガンも響き渡ります。
B面、いしだあゆみさんの大ヒット曲、「ブルーライト・ヨコハマ」。リズミカルに歌いあげるオルガンがなんとも言えない味わいを醸し出しています。もう1曲、ジャッキー吉川とブルーコメッツのヒット曲「雨の赤坂」。イントロのオルガンがまるで雨の情景を再現したような切ない音色。その優しい音がスッと耳に染み渡ります。また両面共に西野さんのダイナミックなドラムの活躍も忘れてはいけません。個人的には日本人のフィーリングに寄り添うようなB面側の演奏に心を掴まれました。
中身のライナーノーツにも注目。番組内で仮装したと思われる御三方の写真が掲載されていて何とも微笑ましく、心が和みます。また番組の司会者であった作家の藤本義一さんのトリオへのインタビューがなかなかキツいジョークも交えながら面白可笑しく、それが返ってお互いの仲の良さを伝えています。さらに神戸に所縁のあった著名なジャズ評論家、いソノてルヲさんの軽妙洒脱な小曽根さんのプロフィール紹介や曲目解説も楽しいので、機会があれば是非目を通していただきたく思います。
この作品が発売された1969年当時、日本のジャズシーンではオルガンサウンドに対する評価がまだまだ確立されていませんでしたので、本作のようなオルガン中心のアルバムを関西のジャズミュージシャンがリリースした事は改めて評価されるべき快挙だと思います。併せて小曽根実さんが日本のジャズオルガニストの草分けの1人であった事を証明していると言えるでしょう。流行を小粋なセンスで自らの色に染め上げる鮮やかさは“神戸らしさ”を地で行くと共に「ジャズ」という音楽の先進性を体現していたのではないでしょうか。